競走馬の脚元をよく見ると、蹄(ひづめ)に「蹄鉄」がついています。
いわゆる馬の靴のようなものです。
でも、ここでちょっと疑問。
野生の馬は蹄鉄なんてつけていません。
それなのに、なぜ競走馬にはわざわざ蹄鉄をつけるのでしょうか。
しかも競馬では、ときどき「落鉄」という言葉も出てきます。
今回は、知っているようで意外と知らない競走馬の蹄鉄について調べてみました。
そもそも馬の「蹄」って何?
馬の脚の先端にある硬い部分が蹄です。
人間でいえば爪に近いものです。
ただし、人間の爪とは重要度がまるで違います。
体重500kg近い競走馬が、細い4本の脚で立ち、さらに全力で走ります。
そのとき地面と接しているのが蹄です。
競走馬にとって「蹄なくして馬なし」といわれるほど重要な部分です。
なぜ蹄鉄をつけるの?
大きな目的は、蹄を保護することです。
馬の蹄は伸び続けます。
自然の環境で暮らす馬なら、歩いたり走ったりするうちに地面との摩擦によって少しずつ削られていきます。
ところが競走馬の場合は事情が違います。
トレーニングセンターなどで毎日のように調教を行い、レースでは高速で走ります。
蹄にかかる負担も大きくなります。
そこで蹄を保護するために使われるのが蹄鉄です。
人間がランニングするときにランニングシューズを履くのと、少し似ているかもしれません。
蹄鉄って痛くないの?
蹄鉄を装着している場面を見ると、驚く人もいると思います。
蹄鉄を蹄に合わせ、
釘を打って固定する
からです。
「馬、痛くないの?」
と思ってしまいますよね。
しかし、蹄鉄を固定する釘は、蹄の神経や血管が通っていない部分に打ちます。
人間でいえば爪の先端部分に近いイメージです。
もちろん、どこに打ってもいいわけではありません。
そこで登場するのが「装蹄師」という専門家です。
蹄鉄をつける専門職「装蹄師」
競走馬の蹄鉄は、誰でもつけられるものではありません。
馬の蹄を整え、状態に合わせて蹄鉄を装着する専門家が装蹄師です。
これがなかなか大変な仕事です。
馬によって蹄の形は違いますし、蹄の状態も常に同じとは限りません。
削れ方や脚の状態などを確認しながら蹄を整え、その馬に合わせて装蹄します。
競走馬というと、
騎手
調教師
厩務員
あたりが目立ちますが、実際には多くの専門家によって一頭の馬が支えられています。
装蹄師もその一人です。
蹄鉄はずっと同じものを使うの?
一度つけた蹄鉄を、そのままずっと使い続けるわけではありません。
蹄は少しずつ伸びていきます。
そのため定期的に蹄の状態を確認して整え、必要に応じて蹄鉄も交換します。
人間でも爪が伸びたら切りますよね。
馬の場合はその上に蹄鉄まで装着しているので、専門的な管理が必要になるわけです。
競走馬の脚元を守るための日常的なメンテナンスと考えると分かりやすいでしょう。
競馬で聞く「落鉄」とは?
競馬を見ていると、
「レース中に落鉄していました」
というコメントを聞くことがあります。
落鉄とは、その名の通り装着していた蹄鉄が外れてしまうことです。
レース中だけでなく、レース前に落鉄することもあります。
当サイトでも以前、ドバイシーマクラシックに出走したドゥラメンテが、レース前に落鉄するアクシデントに見舞われたことを紹介しました。
あのときは大レースの直前だったこともあり、大きな話題になりました。
落鉄したら走れない?
「靴が脱げた」と考えると、とても走れそうにない気がします。
しかし、落鉄したからといって必ず走れなくなるわけではありません。
そもそも馬は本来、蹄鉄がなければ歩けない動物ではありません。
そのため、レース中に落鉄していてもそのままゴールすることがあります。
そして厄介なのが、
落鉄したら必ず大きく不利になるとも限らない
ということです。
レース後に落鉄が判明しても好走しているケースはあります。
逆に、敗れた馬が落鉄していたことが分かれば、敗因のひとつとして考えられることもあります。
馬の蹄の状態や、どの脚の蹄鉄が外れたのか、いつ外れたのかなどによって状況が違うため、
「落鉄=凡走」
と単純には判断できません。
裸足で競馬をすることはできる?
ここも気になるところです。
馬は本来裸足で生活しているのだから、
「最初から蹄鉄なしで走ればいいのでは?」
と思いますよね。
実際、馬が蹄鉄を装着せずに走ること自体は不可能ではありません。
海外では蹄鉄を装着しない「ベアフット」で競走するケースもあります。
ただし、日本の競馬には装蹄に関するルールがあります。
競馬は単に馬が速く走ればいいわけではなく、安全に競走を行うために馬具や装蹄にもさまざまな決まりがあります。
普段何気なく見ている馬の脚元にも、実はかなり細かい工夫がされているのです。
蹄鉄は「馬の靴」だけど、人間の靴とは少し違う
蹄鉄はよく「馬の靴」と説明されます。
確かに分かりやすい表現ですが、人間の靴とは少し違います。
人間なら、
「今日はこの靴が合わないな」
と思えば自分で脱ぐことができます。
競走馬はそうはいきません。
蹄の形や状態を見ながら、人間が適切に管理してあげる必要があります。
そして蹄は、競走能力だけではなく馬の健康にも関係する重要な部分です。
小さな蹄鉄ひとつにも、競走馬を無事に走らせるための技術が詰まっています。
パドックでは脚元にも注目してみよう
パドックを見るとき、どこを見ていますか?
馬体のツヤ。
発汗。
歩き方。
テンション。
こうしたところを見る人が多いと思います。
次回は、ほんの少しだけ視線を下げてみてください。
蹄のところまで見ると、
「ここに蹄鉄がついているのか」
と分かります。
テレビではなかなか細部まで見えませんが、競馬場で実際にパドックを見ると意外とよく分かります。
競馬を知れば知るほど、見るところがどんどん増えていくのが面白いところです。
まとめ
競走馬が蹄鉄をつける大きな理由は、重要な蹄を保護するためです。
競走馬は日々の調教やレースで大きな負荷がかかるため、蹄の状態を管理しながら蹄鉄が装着されています。
そして、その仕事を担当する専門家が装蹄師です。
普段は騎手や調教師ほど注目されませんが、競走馬が走るためには欠かせない存在です。
また、競馬で時折聞く「落鉄」とは、この蹄鉄が外れてしまうこと。
落鉄しても必ず凡走するとは限りませんが、競走馬にとって脚元が重要なのは間違いありません。
次にパドックを見るときは、馬の顔や馬体だけでなく、一番下にある「蹄」にも注目してみてはいかがでしょうか。


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